悩みの日記。記すは発見。残すは苦悩。

日々の悩みや発見を書き起こし、問題解決の糸口を探る為の日記。

玄関を出ると、そこは湖でした。

見上げるとそこは、ひたすら青く広大な空ーー。ではない。土砂降りの雨。玄関の真下、普段駐車場のコンクリートがある場所は深い水溜りになっていた。

僕はかなり高めのテンションで友人の幕田氏とスカイプで会話を続けた。何を話していたのか全く覚えていないのは「地球上最大の台風」に出会いながら「ギリギリ被災していない」という状況に興奮していたからだろう。今となっては愚かな自分を悔いる他ない。

 

私の職場は家から徒歩15分圏内にあり、かなり近いのだが通勤路には小さな橋がかかっている。その橋の下には小汚い川が流れている。農業水路の水が流れ込む、濁川(にごりがわ)という安直なネーミングに違わぬ濁った川だ。その川は僕が避難を始めた23時にはすでに氾濫しており、小さな橋の60m手前はすでに膝上まで浸水していた。この時、はじめて家が浸水するのではないか・もしかして自分の命も危ういのではないかと思い、遠回りして小高い丘を廻って職場へ向かうことにした。

 

途中、何台かの車とすれ違いそうになるたびに手をあげて車を止めた。この先は浸水していて車では通れなさそうであることを伝えると皆一様にため息をついて怠そうに礼を短く言って引き返した。僕は雨合羽に赤いノースフェイスの鞄だったのでさぞ不審だったろう。

 

怠い怠いと言いつつ、なぜそこまでして職場へ向かうのか。決して働きたいわけじゃない。そこが安全であると知っていた、というだけだ。加えて、指定された避難所の高校はどうやっても氾濫している濁川を越えなければならないという理由もあった。

 

職場に避難してからも興奮でなかなか寝付けなかったが、フワッフワの布団で不快な音を発する換気扇の音を聞きながら会議室の床を借りて寝た。一度2時ごろにトイレとタバコに起きたが、その時事務長は1階の事務室でまだパソコンをいじっていた。雨が止む気配はまるでなかった。

 

 

 

翌朝はよく晴れていた気持ちの良い朝だった。家が浸水したかもしれない不安はあったが、見ないことにはまだわからんと楽観的すぎる頭で家へ帰った。濁川の水位が下がり水がはけていたと早番の連中から聞いていた為、普段使っている通勤路を通って帰った。

 

帰り道は壮絶な光景であった。家という家が、どこもかしこも片付けに勤しみ、泥や壊れた家財を外へうっちゃる様子がひたすら続いていた。皆疲れた顔をしていた。台風がもたらした興奮、もしくは「酔い」もそのころにはだいぶ覚めてきて、家へ帰る足は早くなっていた。

 

僕の住んでいるアパートへ着くと、隣の部屋の住人が外でタバコを吸っていた。やっぱり、ダメでした。床上です。そう言われて自分がいかに阿保であったかを思い知ったかは筆舌尽くしがたい。はやる気持ちを抑えて、鍵を開けようとポケットをまさぐると一つ気づいた事がある。鍵が無い。困った、僕は職場に自宅の鍵を忘れたのだった。