悩みの日記。記すは発見。残すは苦悩。

日々の悩みや発見を書き起こし、問題解決の糸口を探る為の日記。

逃亡中のベトナム人をSSにしてみた

私がその男を匿ったのは気まぐれであった。
会社での残業を終え、ふらふらで帰宅している途中に、歩道橋の下で蹲っているのを発見した。


右手には銀色に光る手錠が嵌っており、靴は何も履いていなかった。上半身は裸で刺青らしき模様が見受けられる。

 

脱獄犯か何かかと思った。しかし、その男の顔は投獄されそうな凶悪な人相とはかけ離れており、東南アジア特有の顔の濃さと真っ直ぐな瞳がこちらを不思議そうに眺めていた。

 

その真っ直ぐな瞳が助けを求めているような気がして、私は一人暮らしの築26年のボロアパートに男を匿った。男は名乗らなかった。

 

火をつければよく燃えそうなこのアパート。私の部屋は閑散としていた。地元から逃げるようにして引っ越してきた場所で、生きていくために選んだ会社はその地でもブラック企業と名高い会社だった。家に帰る暇は無く、家で過ごす時間が極端に無いから家の中の物は増えない。子供でもわかる理屈だった。

 

冷蔵庫の中の缶ビールを差し出すと男は首を振った。代わりにペットボトルのコカコーラを手渡す。畳に座ると私は一番搾りを開けた。続いて男もコーラを飲み始めた。

 

男はカタコトな日本語でゆっくりと、私に伝わっているかを確認するかのように話し出した。
地球人では無いこと、地球の文化を調べるために留学してベトナム人に寄生したこと、迎えに来る宇宙船との交信のミスで待ち合わせが日本になってしまったこと、地球滞在の為のビザが切れて不法滞在になり地球警察に追われていることを話した。

 

私の手に負える話では無いと思った。それが本当でも嘘でも、惑星規模の犯罪者になるか国際規模の犯罪者になるか程度の差であり、犯罪者になることは変わらなかったからだ。それに明日も仕事かと思うと憂鬱でそれどころではなかった。

 

男の方へ目線をやると目があった。
今日誕生日なんだ、そう彼は付け加えた。
私は缶が空になると布団に寝転んだ。彼に冷蔵庫の中の物を好きにしていいと言うとそのまま眠りについた。

 

翌朝、5時半。寒さで目が覚めた。外は厚い雲に覆われており、今にも雨が降り出しそうだった。


ベランダへ続く窓が全開になっており、男は外にいた。右手にはスプライトのペットボトルが握られていた。


こちらを振り返り、迎えが来たと呟いた。そしてカタコトな日本語で謝ってきた。

1つ、嘘ついた。留学が目的なのではなく、仕事から逃げる為に地球に来た。昨日捕まってればゆっくりと誕生日を過ごすことができなかった。我々金星人にとって、誕生日は一生に一度しかこない特別な日だ。
プレゼントのコーラ、うまかった。
そう言いながら徐々に空に吸い込まれていく。
願い事、叶えるよ。言って。
仕事を辞めたいと叫ぶと空が光った。


あまりの眩しさに閉じた目を開けると、もう彼の姿は無く、空は晴れ渡っていた。
低い位置の太陽がさっきの光とは違う眩しさで私を照らしていた。昨日からのことは全て夢だったのかと思ったが、確かに冷蔵庫の中のコカコーラとスプライトは無くなっていた。

 

その日、出勤しようと職場に歩いて出た。いつもの道を通って、職場に着くと会社が無くなっていた。会社の土地だったであろう場所が草原になっていた。

 

私は自分が無職になったことに気づき、願い事はお金にしておけば良かったと後悔した。